静まり返った館の中、盲目の少女、あかりは一人で暮らしていた。
彼女は、家族が亡くなった後、この広い館に取り残されたのだ。
かつては賑やかだったが、今では静寂が支配していた。
あかりはその静けさを心地よいと感じながら、周囲の空気に耳を澄ませる日々を送っていた。
ある晩、あかりはふと目が覚めた。
周囲に漂う不気味な気配に身を固くする。
しかし、そんな恐れを打ち消すかのように、突然、館の奥から柔らかな光が漏れ出しているのを感じ取った。
普通の光とは違う。
あかりは、不安に思いながらも、その光に引き寄せられるように近づいて行った。
「なにかがある。」彼女は微かに思った。
この館にはずっと何もなかったはずだ。
視覚を持たない彼女の脳裏には、同じような場所で過ごした幸せな記憶が蘇ってきた。
しかし、その後に続く恐怖もまた、彼女の心を襲った。
光に辿り着くと、そこには古びた鏡が立て掛けられていた。
その鏡は、長い年月の影響で薄汚れ、その表面が剥がれかけている。
それでも、その鏡は、自身の存在を示すかのようにまぶしく光っていた。
あかりは手を差し伸べ、鏡に触れると、瞬間、周囲が静まり返った。
その時、館の中には巨大な気配が立ち込め、心臓が高鳴る。
次の瞬間、鏡の中では信じられない光景が広がっていた。
彼女が見たこともない美しい少女が、微笑みながらこちらを見返している。
しかし、その顔にはどこか異様な陰りがあった。
あかりは、その少女が自分と同じ目を持っていることに気づく。
「あなたは誰?」あかりは恐る恐る、声をかけた。
鏡の中の少女は静かに口を開き、「私はあなたの未来。あなたの過去を知っている。」と答えた。
その言葉に、あかりは身を硬くする。
「私の未来?過去?」彼女は混乱した。
次の瞬間、鏡の光が強くなり、あかりは思わず目を閉じた。
光は彼女を包み込み、何かが彼女の内面に潜り込んでいくのを感じた。
彼女の心の奥に眠っていた記憶が目覚め、今まで隠されていた真実が浮き上がってきたのだ。
それは、かつて彼女が目を持っていた頃の自分。
家族が暮らし、笑い声が絶えなかった日々。
そして、ある晩、家族を襲った悲劇。
目を失ったあかりは、無情な運命によって、彼らの姿を永遠に失ったのだった。
あかりは心の中でその記憶を追い、涙がこぼれ落ちた。
「なぜ、私はここにいるの?」あかりは叫ぶ。
「私の家族はどこに?」鏡の中の少女は優しく微笑み、ゆっくりと答えた。
「彼らは、あなたの中に生きている。そして、あなたの選択によってあなた自身も変わる。」その言葉に、あかりは気づく。
自分が持つ感情、思い出、そして愛が、彼女を形作るのだと。
その瞬間、あかりは自分の中に温かい感情が広がるのを感じた。
過去の悲しみも受け入れ、これからの未来を見据える強さを手に入れることができた。
鏡の少女の姿が次第に薄れ、館の暗闇が戻ってきた。
もう一度、あかりは館の静けさを感じた。
彼女は、ただの盲目の少女ではなく、彼女自身の人生を歩む力を持っているのだと気づく。
目を閉じていても、彼女はもう誰かを失ったりすることはない。
彼女の心の中には、愛する家族の思い出と未来への希望が生き続けていた。
彼女は今、自分の足で確かに立っていた。