大学のキャンパスには、古い歴史を持つ伝説が語り継がれていた。
その伝説の主役は、抱(だく)という名の女子学生だった。
彼女は、誰にでも優しく、誰からも好かれる存在で、周囲の人々から愛されていた。
しかし、その彼女には一つの隠された秘密があった。
抱は、小さい頃からどうしても血に対する執着があった。
彼女は、その血の美しさと力に引き寄せられ、いつしかそれが自分の運命であるかのように感じ始めていた。
大学に進学すると、彼女はその興味をさらに探求することに決めた。
生物学を専攻し、血液の研究を始めたのだ。
抱は、自らの血液型について、何か特別な意味があるのではないかと考えていた。
ある日、彼女は大学の図書館で古い本を見つけた。
その本には、村に伝わる血にまつわる伝説が載っていた。
内容は、血に対する大胆な儀式と、逆にそれによって生まれる不思議な力についてのものだった。
抱は強く惹かれ、早速その儀式を再現することに決めた。
しかし、彼女の好奇心は、危険な領域へと踏み込んでいった。
儀式の日、抱は大学の裏手にある小さな森へと向かった。
そこには、村人たちが血の力を捧げるために神聖視されている場所があった。
抱は、その場にたどり着くと、事前に用意していた材料を取り出し、儀式を始めた。
月明かりの下で、彼女は一心不乱に儀式を進めた。
途中、彼女の手が滑り、小さなナイフで自らの指を切ってしまった。
血が流れ、とめどなく地面に落ちていく。
すると、不思議なことが起こった。
抱の周囲が静まり返り、空気が変わった。
その瞬間、彼女はまるで別の次元に引き込まれたかのような感覚を覚えた。
血が地面に吸い込まれていくと、周囲が赤く染まっていく。
その美しさに彼女は魅了されてしまった。
気がつくと、血の海の中に、同じ姿の抱が現れた。
彼女はその姿を見て、まるで自分が逆に生きることを許されているようだと感じた。
周囲のものすべてが彼女の中へと取り込まれ、彼女は無限の力を宿した自分を発見した。
しかし、その瞬間、彼女は理解してしまった。
もう一人の抱は、自分の影であり、忘れられた過去の象徴だった。
彼女はその存在を消し去らなければ、自分自身は生きられないことを悟った。
目の前のもう一人の自分が、ほぼ無表情でこちらを見ている。
「逃げろ!」その声が彼女の心に響いたが、動くことができなかった。
血の中での抵抗は無駄で、彼女はその力に囚われていく。
血の儀式が進んでいくにつれ、彼女の意識は徐々に消えていく。
周囲の風景が崩れ始め、赤い霧が漂う中、彼女はただ血の海に飲み込まれていくのを感じた。
徐々に彼女の視界は狭まり、身体は冷たくなっていく。
その時、冷たい風に乗って、彼女の耳に囁く声が聞こえてきた。
「お前が欲しかったのは、血の力ではない。お前自身がこの場所に残りたかったのだ。」
その言葉が、彼女の心に突き刺さった。
彼女の意識が完全に消え去り、ただの存在となった彼女の姿が、新たにこの伝説の一部として刻まれていくのだった。
そしてこの森の奥には、抱の伝説が再び生まれることはなかった。
ただ彼女の影だけが、血を求めてさまよう孤独な存在として残り続けることになった。