「絵の中の願い」

小さな町の外れに佇む古い洋館。
夜になると道は薄暗く、月明かりだけが頼りの静けさに包まれる。
その洋館には、年老いた主人、公平とその孫、和也が住んでいた。
和也は大学進学を機に上京したが、夏休みに町に戻ってくると、必ずこの洋館に泊まるのが習慣だった。

ある年の夏、和也は友人たちと肝試しをすることになった。
噂では、この洋館には、亡くなった主人の妻の霊が宿っていると言われていた。
そんな噂を聞いていた和也は興味本位で参加することにした。
友人たちは楽しげに笑い合い、お化け屋敷に挑むような気持ちで洋館に向かった。

夜の8時、蝉の声が静まり、彼らは洋館の前に集まった。
薄い霧が立ち込め、どこか不吉な雰囲気が漂っていた。
和也は少し不安になりながらも、友人たちの盛り上がりに乗せられ、その場に立ち入った。

洋館の中に入ると、古い家具が埃をかぶり、かつての栄華を思わせるような静けさがあった。
友人たちは好奇心にあふれ、部屋を次々と探索していく。
和也も彼らに続くが、どこか胸騒ぎがしていた。

しばらくして、彼らは二階の洋間にたどり着いた。
その部屋の壁には、今にも剥がれ落ちそうな絵画があった。
そして、その絵の中には、かつての主人の妻らしき美しい女性が描かれていた。
和也は、その絵の前で立ち止まった。
目が合ったような気がしたのだ。

「どうしたの?」友人が声を掛けてきた。
和也はそのまま絵をじっと見つめ、「何か、呼ばれているような気がする」と言った。
友人たちは笑って、別の部屋へと向かっていったが、和也はその場に留まり続けた。

その時、突然、部屋の気温が下がってきた。
和也は震え、背筋が凍る思いをした。
そして、壁の鏡が揺れ、その後、耳元で「助けて…」という囁きが聞こえた。
彼は驚き、思わず後ずさりした。
その瞬間、彼の目の前に女性の影が現れた。
透き通った姿で、彼に向かって手を差し伸べている。

「あなたに、私を手伝ってほしいの」と声が響いた。
和也は呆然と立ち尽くし、恐怖と興味の狭間で揺れ動く。
彼女の無邪気な笑顔はどこか悲しげで、見る者に強い感情を呼び起こした。

和也は思わず近づき、その手を取った。
すると、彼の心に不思議な感覚が広がる。
「助けが必要なのは私か…」彼は猛然とその場から逃げ出した。
友人たちと合流し、パニックに陥った彼は、ただ投げ出すようにその夜の出来事を話した。

翌日、和也は再び洋館へ戻る決心をした。
約束されたかのように、彼は古い本を持って行った。
それは、家族の歴史を綴ったものだった。
和也は彼女の悲劇を知りたかった。
伝えられるのは「公平の妻、機会があれば、探してみてほしい」とだけだった。

再び洋館に辿り着くと、和也は循環する思いの中で、彼女の絵を見つめた。
心の中で無事を祈りながら、彼女に語りかけた。
「どうか、もう一度教えてください。この家族の物語を…」

その瞬間、絵の中から温かな光が放たれ、彼女が彼に微笑んだ。
和也は彼女の望みを理解し、これまでの家族の物語を語り始めた。
その瞬間、洋館は静寂に包まれ、長い間閉ざされていた悲しみが解き放たれる気がした。

彼女の霊は、その瞬間、和也の手の中で解放され、明るい光の中に吸い込まれていった。
和也は、その瞬間に全てを理解し、彼女の願いを叶えたのだ。
そして、和也は彼女の記憶を大切にし、この洋館での思い出をいつまでも心に刻むことになった。

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