「消えた遊び仲間」

静かな住宅街に囲まれた小さな園庭があった。
その園は、子供たちの笑い声が響き渡る場所だが、昼でも薄暗い木々が生い茂り、いつしか人々はそこを避けるようになった。
特に、夕暮れ時になると不気味な静けさが訪れ、何もかもを包み込むような空気が漂っていた。

そんな園に生まれ育った健二は、友人たちと遊ぶのが大好きだった。
しかし、ある日、友人たちと遊んでいるとき、ふとした瞬間に一人の女の子が姿を消してしまった。
その女の子の名は美咲。
彼女はいつも明るく元気な子だったが、その日の遊びの最中、木の影から姿を消した。

彼は心配になり、周りの子供たちに尋ねたが、誰も美咲について知らないと言った。
そこで、健二は一人でその園の奥へと入っていくことにした。
暗がりの中、彼は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
美咲がいるのか、それとも何か恐ろしいことが起こるのか、考えれば考えるほど不安は募るばかりだった。

健二が園の奥に進むと、突然、まるで誰かが見ているかのような感覚に襲われた。
黒い影が彼の足元を通り過ぎる。
思わず振り向くと、誰もいない。
心の中に恐怖が芽生え、足がすくんでしまった。
彼はそのまま進み、奥の池のほとりに辿り着いた。
水面は静かに光を反射し、どこか妖艶な雰囲気を醸し出している。

「美咲、いるの?」と呼びかけるが、静寂が響くばかりで反応はない。
彼の心の中には、いつの間にか美咲の姿が浮かんでは消え、ますます不安を増していった。
その時、池の水面が揺らぎ、不気味な現象が目の前で起き始めた。
水面から、彼の知らない少女たちの顔が浮かび上がり、彼をじっと見つめている。
目が合うたびに、彼の心臓が高鳴る。

彼は背後に気配を感じ、振り向いた。
そこには、かつての遊び仲間である祐介が立っていた。
「健二、早くここを離れた方がいい。ここはダメだ。」彼の言葉は不気味な真実を伝えているかのように響いた。
健二は、彼の言葉を無視して美咲の名を何度も呼び続けた。
しかし、その呼びかけは、風に乗って消えていくばかりだった。

その時、くすんだ石の陰から声が聞こえた。
「遊びに来てくれたの?」それは美咲の声に似ていたが、どことなく奇妙で、どこか冷たく響いた。
健二はゾッとして振り返ったが、そこには美咲の姿は見当たらなかった。
ただ、池の水面が再び揺れ、影が深く沈んでいくのが見えた。

何か悪いことが起きていると感じた健二は、恐怖に駆られ、その場から逃げ出した。
日暮れが迫る中、心の中の不安が渦巻いていた。
元気だった美咲はどこにいるのか、そして、あの声は一体誰のものなのか。
友人の祐介と共にその園を出ると、背後から「また遊びに来てね」という声が、かすかに聞こえた。

それから数週間後、健二は美咲を探すために何度もその園へ足を運んだが、彼女の姿を見つけることはできなかった。
周囲の人々は、彼女の失踪について口を閉ざし、之を恐れ、語り継いではいるが真実を知ろうとはしなかった。
健二は無力感に苛まれ、自分の無謀さを悔やむ日々を送っていた。
園には次第に人々が近づかなくなり、その存在は徐々に忘れ去られる運命にあった。

しかし、健二の心の中には、消えることのない美咲の姿が残り続けた。
あの声、あの影、そして池の奥に潜む未練。
彼は決して彼女を忘れないと誓ったが、恐れも同時に彼を包み込んでいた。
幽玄なる園の静寂の中、美咲の声は依然として響き渡るのだった。

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