夏のある日、大学の友人たちと一緒に訪れた田舎のキャンプ場。
そこには、かつて大きな池があったが、数年前に埋め立てられ、今はただの草地となっていた。
それでも、私たちはそこでバーベキューを楽しむことにした。
日が沈むにつれ、空には星が瞬きはじめ、静けさが広がる中、友人の健二がふと思い出したように言った。
「この辺には、昔話に出てくる『光る池』があったんだよな」と。
彼の話によると、その池は満月の夜に美しい光を放つ「池の精」が住んでいたという。
近づいてはいけない場所とされ、過去に何度か池の近くを訪れた人々の中には、なぜか行方不明になった者もいるという。
私たちの中には、そんな怪談を恐れながらも興味を持ったメンバーが多かった。
そこで、私たちはその池の跡地を探索することに決めた。
草地を抜けて少し歩いていくと、幻想的な光景が広がっていた。
そこは、埋め立てられた池の中心にあたる場所で、月の明かりが地面に美しい模様を作っていた。
「見て、あの光!」友人の裕子が声を上げる。
彼女が指差した先には、青白い光が地面からふわっと立ち昇っているのが見えた。
それはまるで、何かを呼び寄せるかのように揺らめいていた。
私たちは好奇心に駆られ、その光に近づくことにした。
しかし、近づくにつれて、冷たい風が吹き抜け、不穏な気配が周囲を包み込んだ。
「何だか、変な感じがする…」裕子が言うと、私たちも同様に感じ始めた。
光は一段と強くなり、まるで何かが私たちを引き寄せようとしているかのようだった。
「ちょっと待て、近づかないほうが良いんじゃ…」健二が言いかけたその瞬間、光の中から何かが現れた。
薄い膜のような存在で、思わず目を凝らして見ると、その中に人の顔がかすかに浮かび上がっているのが見えた。
「助けて…私を呼んだのは誰…?」と、幽かな声が響く。
私たちは恐怖に駆られ、一歩後退した。
裕子が恐る恐る「行こう、戻ろう!」と言うと、私たちは慌ててその場を離れようとした。
しかし、一人、健二だけがその場から動けずにいた。
「健二、早く!」私たちが叫ぶと、彼は光に吸い込まれそうな表情を浮かべていた。
「何かが俺に訴えかけてくる…」彼はそう呟き、ついにその場所に踏み込んでしまった。
「健二!」私たちは彼を引き留めようとしたが、後ろに立つ光は強まり、周囲には不気味な静けさが広がった。
ついに健二の姿が光の中に飲み込まれ、私たちは息を飲んだ。
その瞬間、冷たい風が吹き荒れ、光は消え去った。
すると、目の前に立っていたはずの健二の姿が、無残に消えてしまったのだ。
私たちは恐怖で足がすくみ、ただその場から逃げ出した。
あの光が何であったのか、健二は本当にどこに行ってしまったのか、一切の真相はわからなかった。
ただ、一つだけわかったのは、あの池の伝説が決して無関係ではなかったということだった。
それからというもの、夜になると、あの地点から光を見たという人々の噂が絶えなかった。
夏が過ぎ、秋が来て、キャンプ場へ行くことはなくなったが、あの光景は今でも鮮明に心に残っている。
あの光は、いったい何だったのか。
健二は今、どこで何をしているのだろうか。
心に引っかかる思いを抱えながら、私はもう一度あの場所へ行く勇気を失った。