小さな町の外れにひっそりと佇む元小学校。
廃校となってから数年が経ち、外壁はコケに覆われ、窓は割れたまま放置されていた。
かつては子供たちの元気な声が響いていた場所も、今は静寂に包まれていた。
誰もがその学校に近づかない理由を知っている。
曰く、亡くなった生徒の霊がうろついているというのだ。
その学校に興味を持ったのが、大学三年生の健一だった。
彼は心霊現象や都市伝説が好きで、特に「亡くなった生徒」の噂に魅了されていた。
ある夜、勇気を振り絞り、彼は友人の明美と一緒に学校を訪れることにした。
彼女もまた好奇心旺盛な性格で、健一の提案に乗ることになった。
二人は懐中電灯を持ち、廃校の入り口に立った。
冷たい風が吹き抜け、不気味な雰囲気が漂っていた。
扉を開けると、古い木の床がきしむ音が響く。
中に入ると、教室や廊下はうっすらと緑色のカビに覆われていたが、かつての学び舎の面影は残っていた。
健一は興奮しながら、教室の中を探索していた。
数十分後、明美は教室の窓から外を眺める。
彼女の視線がどこかに向かっていることに気づいた健一は、「どうしたの?」と尋ねた。
しかし、明美は興奮した様子で答えた。
「見て!外に誰かいる!」
健一は窓に寄り添い、外を眺めた。
しかし、何も見えない。
再び明美に目を向けると、彼女の顔は青ざめていた。
「もう一度見て!確かにいたの!」
何か悪い予感がした。
無理に明美を信じようとしたが、動き始めたその足を止められなかった。
健一は学校の裏手に回り込むことにした。
そこには、かつて遊び場だった場所があった。
だが、健一がそこに足を踏み入れると、空気が重く感じた。
かすかに、誰かの声が聞こえたような気がした。
「健一、早く戻ってきて!」明美の声が急かす。
しかし、彼は気になって動けなかった。
「待って!もう少し確かめるから!」と答える。
一瞬、背筋に寒気が走った。
ひとしきり何かを確認しようとするが、その声は徐々に遠のいていく。
振り返ったとき、目の前に立っていたのは、半透明の少女だった。
小さく、白い制服を着て、無表情で彼を見つめていた。
衝撃が走った。
彼女はまさしく、噂されていた亡くなった生徒なのだと気づいた瞬間、健一の足は硬直した。
少女が一歩、また一歩と近づいてくる。
「助けてほしいの……」その声が耳に響く。
恐怖心が彼を襲い、身体が震え始めた。
「私はここに居るよ……帰れないの……」その言葉が心に突き刺さる。
彼は意を決して目を閉じ、逃げ出そうとした。
その瞬間、彼の後ろで明美の悲鳴が聞こえた。
振り返ると、明美がその少女に掴まれている姿が目に入った。
彼は必死に駆け寄って行った。
「明美!行くぞ!」 screams of panicが耳に入ってくる。
だがその時、少女は静かに目を閉じ、そして明美に向かって手を伸ばす。
明美はまるで彼女に引き寄せられるかのように、その手に向かっていく。
「明美!」健一は叫び、彼女の腕を掴もうとしたが、その瞬間、少女の手が明美の肩に触れ、消えてしまった。
あたりは急に静まり返った。
明美も、少女も、そこには存在しなかった。
健一は恐怖に包まれ、急いで学校を飛び出した。
後ろを見る勇気もなかった。
学校の外に出た時、心臓の鼓動が耳鳴りのように響いた。
明美を助けることができなかった自分を責めながら、彼は町へと逃げ帰った。
彼の心には、あの少女の無表情な顔が焼き付いて離れなかった。
以後、彼は、その学校には二度と近づくことはなかったが、心の奥に感じ続ける「亡くなった生徒」の影は、決して消えることはなかった。