静まり返った深夜の町、明かり一つない古びた公園には、忘れ去られたような池が存在していた。
そこは、かつて村人たちが集い、笑い声が響いていた場所。
しかし、今では誰も近づくことのない禁忌の地となっていた。
ある日、若い女性、菜々はその公園を通りかかると、月明かりに照らされた美しい池を見つけた。
水面は静かで、その上に映る月の光はまるで別の世界へ続く扉のように思えた。
池に近づき、水面に映る自らの顔を見つめる菜々。
しかし、顔が映るその瞬間、彼女は不思議な感覚に襲われた。
自分の背後から誰かが見ているような気配を感じたのだ。
ふと振り返ると、誰もいないはずの暗闇の中に、微かな光が見えた。
その光は徐々に強くなり、池の水面にこぼれ落ちるように広がっていった。
菜々は、その光が何か特別なものだと直感した。
そして、心の奥底から湧き上がる衝動に駆られるように、彼女は池の中に手を伸ばした。
その瞬間、水面が急に渦を巻き始め、強い力で彼女を引き寄せた。
菜々は驚き、足を引っ込めたが、もはや遅かった。
彼女の体は池の中に吸い込まれ、その視界は暗闇に包まれてしまった。
豊かな光が池の底から立ち上る一方、彼女は何かに取り込まれる感覚を味わっていた。
そこは、時間が止まったような、不気味な空間だった。
周囲には無数の水草か何かが揺れており、遠くにはぼんやりとした光が漂っていた。
菜々は不安を感じながらも、その光へ向かって進んだ。
すると、目の前に不気味な影が現れた。
それは、数年前に行方不明になった彼女の同級生、健一だった。
彼女は驚きとともに嬉しさを覚えたが、彼の表情は変わり果てていた。
「菜々…助けて…」彼の声はかすれ、「復讐」が迫っているかのようだった。
彼女は彼を救うために手を伸ばそうとしたが、健一の姿は水に溶けるように消えてしまった。
もう一度光の方に進んでいくと、今度は別の光が彼女を引き寄せてきた。
それは新しく現れた影だった。
影はにやりと笑うと、「私も待っていたよ、菜々」と不気味にささやいた。
振り返ると、そこには健一と同じ姿の少女が立ち、彼女の目を見つめていた。
「復讐の時が来た」と言った瞬間、彼女の周りの空気が変わり、他の何かも現れる気配を感じた。
菜々は恐怖に駆られ、後ろに下がった。
周囲の光が揺らぎ、さまざまな影が彼女を取り囲んだ。
彼女が見たこともない顔が水から浮かび上がり、彼女に手を伸ばしてきた。
次々と現れるのは、彼女の周りに生きていたすべての人々の忘れ形見だ。
「お前も、ここに来る運命なんだ」と彼らの声が響く。
菜々は背後にある池の出口が見えなくなるのを感じ、彼女の目の前には無数の手が迫ってくる。
「戻りたくても戻れない。お前も私たちの仲間になるしかない」と囁く声が聞こえた。
その時、池の水面が再び光を放ち、彼女の目の前にあった何かが崩れ去るように消えていった。
彼女の思考も、意識も、再び周囲の暗闇に飲まれていく。
菜々は何も分からずに閉じ込められ、もう二度とこの世界に戻れないという運命を受け入れるしかなかった。
数時間後、静まり返った公園には、二度と人が寄り付かない池が残るだけだった。
池の底から時折、かすかな声が響いており、人々の耳には届かない悲鳴のように聞こえた。
そこに潜むものは、彼女の復讐を待ち続ける者たちだった。