「求められし者たちの影」

静寂が支配する町外れの古びた家。
木々に囲まれたこの場所は、常に不気味な雰囲気を醸し出していた。
私たちが住むこの町では「あの家」として知られ、子供たちの間では肝試しのメッカとなっている。
しかし、誰もその家に足を踏み入れたことはなかった。

ある夏の日、友人の健二がふと無邪気に提案した。
「今夜あの家に行こう!」と。
最初はみんなが戸惑ったが、好奇心と少しの恐怖感が交錯し、私たちはその提案に乗ることにした。
夜が訪れると、私たちは懐中電灯を手に、ぞろぞろとその家へ向かった。

家の前に立つと、月明かりに照らされた古びた外観が、どこか冷気を帯びているように感じた。
ドアは年月を経て腐りかけ、とてつもない音を立てて開いた。
内部は暗く、湿った空気が忍び寄る。
ふとした瞬間、友人の美咲が恐れたように言った。
「大丈夫かな、こんなところ?」

「大丈夫だよ!」私は強がって答えたが、心の中では不安な気持ちが小さくなることはなかった。

懐中電灯を持って進むと、壁には過去の住民が残したであろう、色あせた写真がぎっしりと貼られている。
その中の一枚に目が留まった。
若い女性が笑っている写真だ。
しかし、何かがおかしい。
彼女の目は空虚で、まるで何かを求めているように見えた。

「見て、これ変じゃない?」健二が指をさすと、他の友人たちも周囲の写真を確認した。
どの写真の女性も、同じように私たちを見つめ、求める目をしていた。
しかし、時間をかけて進むほど、その視線が次第に強くなっていくのを感じた。

部屋を進むうちに、古びた鏡が目に入った。
そこには一見、何の変哲もない反射が映っている。
しかし、近づいて見ると、後ろに立つ私たちの姿が、まるで歪んで映し出されているのだ。

「これ、変だよ。やめよう」と、美咲が後退りながら言った。
誰もが異様な雰囲気に気づき、前に進む意欲が失われていく。

そんな中、突然、鏡の中に目を凝らすと、誰かが映っているのに気づいた。
そこには、笑っている女性が映っていた。
近くには私たちの姿が。
その女性は、一瞬、私たちに向かって手を差し伸べた。
そして次の瞬間、彼女の表情が無表情に変わり、恐ろしいほどの目を見開いた。

「逃げろ!」健二が叫び、私たちは一斉に後退した。
しかし、鏡の中の女性は、動き出し、私たちを捕えようとしているように見えた。
私の頭の中では、あの女性の目が焼き付いて離れなかった。
「何故、私を見てるのか、何を求めているのか」と。

突然、家が軋み、冷たい風が吹き抜けた。
みんなで走って出口を目指すが、道は見えなくなっている。
私は、同時に自分の背後に誰かがいるような感覚を覚え、振り返る。
不気味な空気が立ち込め、心臓が鼓動を早める。
しかし、目に映るのはただの黒い影。
誰もいないのに、目がこちらを見つめているように思えた。

やっと外へ出た私たちは、息を切らしながら振り返った。
あの家の窓からは、確かにあの女性の目が私たちを見ていた。
そして気づいた。
その女性が欲しているのは、私たちの存在なのだと。

小さくなる背後の家を眺めながら、私は「もう二度と近づくことはない」と心の中で誓った。
その後、私たちはあの家のことを語ることもなかった。
町の噂は続き、夜が深まるたびに、あの家で何かが求められているのだと、薄暗い町が静かに語り継ぐのであった。

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