ある静かな町に位置する「着の森」と呼ばれる場所。
そこには、昔から「束の呪い」と言われる伝説があった。
人々は、不気味な噂を避けるように、近づかないようにしていたが、好奇心旺盛な大学生の慎太郎は、仲間たちとともにこの森へ肝試しに行くことを決めた。
慎太郎は友人の智子と圭介、さらには彼らの知人の恵理と一緒に、夜の森に足を踏み入れた。
月明かりが薄暗い木々に浸透し、森全体に独特の冷気が漂わせていた。
「束の呪い」とは、ここに住む滅びた村人たちの霊が、束のように結びつき、誰かにこの森に迷い込んだ者を引き寄せるというものだった。
慎太郎たちはその噂を冗談交じりに笑っていたが、どこか不安な気持ちもあった。
森の奥に進むにつれ、彼らの会話は次第に少なくなり、静寂が支配する。
その時、突如として、智子の携帯が光り、画面には見覚えのないアプリのアイコンが表示された。
「束の声」と名付けられたそれを、不安げに眺める仲間たち。
好奇心から智子はそのアプリを開いた。
すると、間もなくその画面が曇り、続けて奇妙な言葉が流れ始めた。
「あなたたちの束は、無になろうとしている」
その瞬間、周囲の空気が変わった。
木々がざわめくように揺れ、霧のような不気味なものが現れた。
慎太郎は慌てて仲間たちの手を掴み、その場を離れようとした。
しかし、気がつくと、彼らは同じ場所を延々と彷徨っており、出入口が見当たらない。
恐怖で心拍数が上がり、慎太郎は叫んだ。
「何が起きているんだ!?」
「これは束の呪いだ」と圭介がうわごとのように呟く。
やがて、彼の瞳が虚ろになり、まるで別人のようになってしまった。
恵理は涙を流し始め、智子もその様子に怯えた。
慎太郎はここから逃れようと必死だったが、仲間たちに手を引かれ、いるはずのない影が近づいてくるのを感じた。
その影は、彼らの目の前に立ち、まるで彼らの束を奪うかのように手を伸ばした。
慎太郎は懸命に抵抗したが、それは無駄だった。
無の一部となってしまった友人たち。
ついに彼は、自分一人だけが生き残る決意を固めて逃げることにした。
時が経つにつれ、慎太郎はようやく森の外に辿り着いた。
しかし、彼が振り返ると、森はまるで何も無かったかのように静まり返っていた。
友人たちの姿はどこにもなく、彼らの笑顔や記憶は幻想として消えてしまったのだ。
慎太郎は自宅に戻るが、心の奥には大きな喪失感が残っていた。
数日後、彼は「束の声」のアプリを再び見ることになる。
そこには、無の言葉が現れていた。
「君は一人ではない。束の呪いは決して消えない。」その言葉に、彼はただただ震え上がる。
あの夜、あの森で起こった出来事が彼の中で何かを変えてしまったのだと感じる。
彼は、永遠に彼らを失ったことを知り、心に重い影が落ち続ける中、ただ静かに生き続けるのだった。