修は、都会の喧騒を離れた田舎の村に引っ越してきた。
新しい生活への期待と共に、農作業を手伝いながら日々を過ごしていた。
村は静かで、どこか神秘的な雰囲気を漂わせていたが、村人たちは決して深い話をしようとはしなかった。
それが気になった修は、ある日、古い神社を訪れることにした。
神社は村の外れに位置しており、古びた鳥居と朽ちた石段が、長い間人々に忘れ去られてきたことを物語っていた。
修はその静寂な空間に足を踏み入れた。
そこには特別な何かがあると感じた。
修が境内を歩いていると、ふと風に乗ってかすかな声が聞こえた。
「ここから出てはいけない……」
その声は心の奥底に響き、何か不穏な予感をもたらしたが、修はその声音の主を探しに神社の奥へと進んでいった。
気がつくとすでに薄暗く、辺りは霧に包まれていた。
修は心を落ち着かせ、感じるままに進んでいく。
すると、ふと目の前に一対の手が現れた。
まるで地面から生えたように伸びている手は、手のひらを天に向けて開いていた。
修は驚き、後退したが、その手は静かに彼を招くように動いた。
好奇心が勝り、修は引き寄せられるようにその手に近づいた。
近づくにつれて、手からは冷たい気配が漂い、どこか懐かしい感覚を覚えた。
まるで、誰かに待たれているかのようだった。
しかし、その瞬間、強烈な恐怖が襲い、修はその場から逃げ出した。
数日後、修は村で何度も同じ手の夢に悩まされた。
夢の中でもその手は彼を呼んでいた。
恐怖を感じながらも、その存在が自分に何を伝えたいのか気になり、再び神社を訪れることにした。
今回は友人の健二を連れて行くことにした。
彼もまた修のことを心配している様子だった。
神社に到着すると、再び霧が立ち込めていた。
修は健二と共に恐る恐る手の現れる場所へ向かっていった。
そこに着くと、手はすでに待っていた。
修はその手を見つめることができず、足がすくんでしまった。
しかし、健二が修の肩に手を置くと、彼は冷静さを取り戻した。
「どうする、行こうか?」健二の問いかけに、修は自分の気持ちを整理し直した。
「行こう。多分、私たちがこの手を理解することで、何か答えが見つかるはずだ」と言い、修はその手に近づいていった。
手に触れた瞬間、視界が真っ白になり、次の瞬間、二人は異次元のような世界に立っていた。
そこには、村で見たことのない風景が広がり、色鮮やかな光が満ちていた。
しかし、周囲には手が無数に存在していた。
どの手も、ここに迷い込んだ者たちを引き寄せ続けているようだった。
手の一つが修の方に伸びてきた。
思わず修はそれを受け入れた。
すると、心の中に様々な感情が湧き上がり、失われた思い出や過去の自分が浮かび上がった。
その瞬間、彼の心は解放され、苦しみに満ちた過去が彼から消え去っていくのを感じた。
健二もまた、他の手に触れた瞬間、彼自身の闇を見つめることができた。
お互いが持っていた恐れや不安、それでも前へ進もうとする意志が、手を通じて体現されているようだった。
二人はそれぞれの影を受け入れ、手を離しにかかった。
次の瞬間、元の神社に戻され、霧はすっかり晴れていた。
手はもはや現れず、静寂な空間が二人を包み込んでいた。
修と健二は、心の中にあるトラウマを少しだけ克服したことを感じ、力強い友情で結ばれていることを再認識した。
村人たちの意識には未解決な思い出や恐れが渦巻いていたのだと、修は気づいた。
彼はこれからそのことを伝え、村を変えていこうと決意したのだった。
手は人を引き寄せ、そして人を解放する力を持っているのだと修は改めて理解した。