夜の公園、その名は「忘れられた庭」。
かつては地域の子どもたちに親しまれた遊び場であったが、次第に利用者が減り、草木が生い茂り、今では人々の記憶の片隅に追いやられていた。
その公園には、何か不気味な雰囲気が漂っていた。
若者たちは好奇心から、夜になると肝試しを企んで近づくことがあった。
ある夏の夜、友人の光一、優香、明美、そして浩二の4人は、「忘れられた庭」に足を運んだ。
心霊スポットとして評判のその場所で、彼らは友達同士の絆を確かめあうため、肝試しを決行することにした。
4人は仲が良く、何度も一緒に遊んできた。
そして、その夜、強い絆を確かめるために、「互いの記憶を探る」という新たなゲームを始めることにした。
お互いに選んだ思い出について話す。
その中には些細なことや、笑い話になるような思い出で構成されたものがあった。
しかし、途中で浩二が口を開いた。
「この公園で一番怖い思い出を語るのはどうだ?お化けとか、幽霊とか、そういうのさ」と提案した。
みんなは一瞬沈黙した。
優香が最初に口を開く。
「覚えてる?小さい時にここで秘密基地を作ったこと。夜に友達と一緒に寝泊まりしたりして、本当に楽しかった。だけど、ある晩、周りが静かになりすぎて、逆に怖くなったの。みんな寝てしまって、私一人だけ目を覚ましていたの。何かの気配を感じたんだ。」優香は続けた。
「気が付くと、真っ白な影が私の方に来て、笑っているような顔をしてた。私は怖くて、目をつむったままその影が近づくのを感じていたの。次に気がついた時、朝になっていた。」
他のメンバーは真剣に聞いていたが、浩二が問いかけた。
「それ、ただの夢じゃないの?」と軽く片付けるように笑った。
次に明美が話し始めた。
「私の番だね。数年前、私たちがまだ高校生だった時、ここで肝試しをしたよね。その時、みんなが怖がっている中で、私だけは元気に笑っていた。でも、急に私がしゃべった瞬間、背後に誰かいる気配がした。その瞬間、気絶しちゃった。不思議だよね。気がついたら、妙なことを言ってる自分がいたんだ。」
「そんなの、面白半分でやってたからだろ?」と光一が冷やかすように言った。
最後に浩二が自分の番を告げた。
「俺の覚えてる一番怖い思い出は、この公園に関するものだ。この公園には、月に一度だけ現れる「忘れられた者」という存在がいるって噂があるんだ。
公園の中でも特にこの一角に。
そこに立ち入る者は、過去の記憶が掻き消されてしまうって。
俺らの友情も、どこかに消えてしまうんだって。
」
その言葉に、優香は不安そうな顔をして言った。
「まさか、その存在が私たちの記憶を奪うなんて、信じられないよね。」
「そんなことないだろ。」浩二が強気で言い返したが、心の中に小さな疑念が芽生え始めていた。
彼らは互いの顔を見る。
不安そうな表情を浮かべる仲間たち。
しかし、誰もがそれ以上何も言わなかった。
次第に、周囲の雰囲気が変わっていく。
じっとしているはずの公園の影が揺らいでいるように感じた。
そして、その瞬間、何かが彼らの存在をすり抜けていった。
優香は恐怖に満ちた目で周囲を見回し、明美はついに我慢できずに逃げ出すと言った。
「私はもうここにいたくない。」
他の3人も動揺し始めた。
語り合ったはずの友情が、影にさらわれていく恐怖感をじわじわと感じ取りながら、彼らは公園を逃げ出した。
その時、背後から何かの声が聞こえたような気がした。
それは優香の声なのか、それとも浩二の声なのかわからなかった。
「忘れられた者」の影が、彼らの絆を壊すために忍び寄っていた。
その夜以降、彼らの仲は少しずつ疎遠になっていく。
何度も集まることがあったが、いつも「忘れられた庭」での恐ろしい体験が胸を締めつけ、多くの記憶が曖昧になっていった。
あの公園には、もう二度と戻りたくないという共通の思いだけが残った。
やがて彼らは音信不通になり、一緒に過ごした思い出が一つ、また一つと記憶の底に沈んでいく。
しかし、誰もが心のどこかで「何があったのか」を思いきり振り払うように願っていた。
忘れ去られた公園の記憶は、彼らの心の中で、生き続けているのかもしれなかった。