「光の消えた神の使い」

むかし、山あいの小さな村に、「験」という名前の若者が住んでいた。
験は地元の神社で神の使いとして尊敬されており、村人たちは彼の言葉を大切にしていた。
しかし、彼は神からの試練によって、その運命を大きく変えられることになる。

ある夜、験は神社の祭壇の前で礼を尽くしていた。
静寂の中、一筋の光が差し込むと、その光は験の心を揺さぶった。
光の先には、不思議な美しさを持つ一対の扉が現れた。
扉の向こうには、神の住まう世界が広がっていると言われていた。
験は興味を抱き、思わずその扉へと歩み寄った。

扉を開けると、目の前に広がる景色は幻想的だった。
美しい光が満ち、神々しい存在が彼を迎えてくれた。
しかし、その瞬間、突然の暗闇が彼を襲った。
まるで光が消えてしまったかのように、辺りは真っ暗になり、験は恐怖に駆られた。
彼はいつの間にか、光の世界からは遠く離れた場所に立っていた。

その場所は、誰も見たことのない、不気味な空間だった。
霧が立ち込め、彼の目の前には失われた人々の姿が見えた。
彼らは消えたはずの村人たちで、鋭い眼差しで験を見ている。
彼らは自らの存在が薄れていく感覚を抱えたまま、呻くように言った。
「助けてくれ…私たちはここで消えてしまう…」

験はその声に引き寄せられ、彼らの元へ向かったが、その行動が彼自身をも消えさせてしまう危険を孕んでいた。
彼自身もまた、光を失い、存在を転換させる選択を迫られていた。
村人たちの姿は次第にぼやけ、消えていく。
彼は彼らを救おうと、必死に手を伸ばした。

その時、神の声が響いた。
「お前に試練を与える。失うことを恐れ、光を求めるなら、己を犠牲にする覚悟を持て。」験はその言葉を聞き、葛藤した。
自分だけが助かることは許されない。
彼は決意を固め、神に願った。
「皆を、助けてください。」

光が戻り、験は自らの命を捧げることを決意した。
彼の心が強まると、周囲の霧は晴れ始め、失われていた村人たちの姿が鮮明に戻っていく。
村人たちは次第にその形を取り戻し、彼らの表情も明るさを取り戻していく。
「ありがとう、験!」声が響き渡った。

しかし、神の試練は終わってはいなかった。
験は自らの光を消すことで、村人たちを救ったが、彼自身はかつての姿を失っていた。
彼の存在は、村人たちに希望を与えながらも、彼自身は永遠に異なる世界に転生した。
村人たちは験のことを忘れないだろうと、彼は思った。

神社に戻ると、村は元の平穏を取り戻していた。
ただ、本当に大切な何かが失われたことは、誰もが理解していた。
そして、神社には験の名が刻まれ、彼の勇気を讃える言葉が、世代を超えて語り継がれていくことになるだろう。
消えた光を求める験の姿が、今もなお、彼らの心の中に生き続けていた。

タイトルとURLをコピーしました