「光の囁き」

彼の名は佐藤。
大学の研究者として、常に新しい現象を追い求めていた。
ある日、友人から聞いた「光の声」という不思議な話が彼の興味を引いた。
それは、特定の場所に行くと、光の中から人の声が聞こえるというのだ。
信じられない話ではあったが、彼はその場を訪れることを決意した。

舞台は、近郊の山奥にある廃墟となった神社だった。
かつては崇められた場所であったが、今は忘れ去られ、自然の静寂に囲まれていた。
神社の境内に入ると、木々の間から柔らかな光が差し込み、その中に何かが揺らめいているように見えた。

佐藤は、音声記録用のデバイスを持ち、周囲の景色を観察しながら進んでいった。
日が沈むにつれ、神社は不気味な静けさに包まれていく。
彼は心のどこかで、声を聞き取ることができるのか不安に思いつつも、光の先に引き寄せられるように足を進めた。

そして、神社の奥に差し掛かると、彼は突如として耳をつんざくような声を聞いた。
「助けて…」という呼びかけだった。
それは、どこからともなく響いてくるが、具体的な場所はわからなかった。
心臓が高鳴り、背筋が凍る。
光の中から発せられる声。
それは一体何なのだろうか?

彼は恐る恐るその声に導かれ、周囲を探し始めた。
すると、微かに光を放つ石の前に立ち尽くす自分を見つけた。
石の表面には、古い文字が彫られていた。
声がその石に繋がっているのだと悟ると、彼はデバイスを取り出し、音声を録音しようとした。

しかし、そこで異変が起こった。
周囲が急に暗くなり、石の光は内側からにじみ出るように強さを増していく。
その瞬間、光が彼の体を包むかのように輝き上がると、再び声が聞こえてきた。
「あなたが…助けてくれるのか?」

佐藤は戸惑った。
声の主は、まるで泣いているように聞こえた。
彼は意を決し、「誰ですか?何があったのですか?」と問いかけた。
しかし、声は彼の質問に答えることなく、ただ「私を解放して」と繰り返すばかりだった。

その時、石の光が一層激しく輝き、佐藤は目を閉じざるを得なかった。
再び目を開いたとき、彼は神社の境内に立っている自分を見つけたが、辺りは静まり返り、声は完全に消え去っていた。
彼の心には、不安が広がり、空虚感が迫っていた。
何か大切なものを逃したのではないかという思いに囚われていた。

その夜、佐藤は夢の中で再びあの声を聞いた。
「まだ、私を救う力があるはず…」夢から目覚めた瞬間、彼は気づく。
彼が持っていたデバイスには、その声が録音されているだけでなく、その声が自らの過去に関わっていることに。

彼は、途中で気づくことができなかった多くの因縁を思い描き、再び光の場所へ向かう決心を固めた。
今度はただの好奇心ではなく、彼女を助けようとする強い意志を持って。

光の声は、彼の心に深く刻まれ、彼が探索を続ける理由となった。
それは、忘れ去られた存在が求める解放の声だった。
そして、佐藤は再び神社の廃墟へと誘われていく。
彼の物語は、まだ終わってはいなかった。

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